武豊騎手を背に勝利した2007年の弥生賞(撮影:下野雄規)
今週末、中山競馬場では、クラシック戦線を占う伝統の一戦、弥生賞が行われるが、2007年にこのレースを制したアドマイヤオーラ(牡11)が、3月3日、北海道新冠町の優駿スタリオンステーションで亡くなった。
同馬は、アグネスタキオンと2歳女王のビワハイジを両親に持ち、兄弟馬にアドマイヤジャパン、ブエナビスタ、トーセンレーヴ、ジョワドヴィーヴル、サングレアルら、重賞勝ち馬が並ぶ良血馬だった。
競走成績は、シンザン記念(GIII)、弥生賞(GII)、京都記念(GII)を含め、16戦4勝。クラシック路線では皐月賞4着、日本ダービー3着という成績を残している。2010年8月29日の新潟記念(GIII・17着)を最後に競走馬登録を抹消し、優駿スタリオンステーションで種牡馬入りした。
「GIをいくつも勝つなど華やかな成績を残していないと、種牡馬としては期待はされない傾向にあります。この馬も良血ではあっても、GI勝ちはありませんし、最初は生産地でも特に注目された存在ではなかったのです。種付け頭数も、さほど恵まれませんでした」と話すのは、株式会社優駿の藤本一真さんだ。
初年度の2011年は62頭に種付けされたものの、頭数は徐々に減り、昨年度は23頭になっていた。だが、クロスクリーガー(牡3)やゴールドペガサス(牡3)がオープン入りし、地方競馬ではコンドルダンス(牡3)が平和賞で2着になるなど、昨年デビューの初年度産駒は想像以上の活躍を見せた。
「芝でもダートでも走ってくれていますし、何の助けもない中でこれだけの成績を挙げられたというのは、この馬の持つ能力の高さだと思います」(藤本さん)
それだけに今回の急逝は、本当に惜しまれるものだった。
「ウチには兄のアドマイヤジャパンもおりますが、父が別のせいか、兄とは体型が違いますね。オーラは決して大きくはないのですが、コンパクトにまとまっていて、体の線がとてもきれいな馬です。体全体もそうですが、体の部位1つ1つを見ても、切れる脚を使う馬だというのがわかりました」(藤本さん)
額の流星とあいまって、駈ける姿にも気品が漂っていたアドマイヤオーラだが、気性の強さも兼ね備えていた。
「カン性が強い馬でした。これは兄(アドマイヤジャパン)も同じです。自己主張が強く、自分の意に添わないことがあったら、納得するまで頑として動かないところがありました。他の馬に対しても、気の強さを見せていました。とてもプライドが高い馬でしたね。
弥生賞は、世代のトップクラスが集まりますし、非常に重要な位置づけのレースだと私は考えています。このレースを勝った馬は、その後も活躍するケースも多いですしね。その弥生賞を勝ち、シンザン記念ではダイワスカーレットを破り、古馬になってからは京都記念でウオッカを負かしています。それを考えただけでも、たとえGI勝ちはなくても、GI級の能力があったと思います」(藤本さん)
昨年デビューした初年度産駒の多くが勝ち上がり、中央競馬でオープン馬を2頭輩出したこともあって、今年は150頭以上の種付け申し込みがあり、既に7頭に種付けを行っていた。
「何の助けもない中で種牡馬生活をスタートし、自力で道を切り拓いて、これからさらに上を目指していこうとしていたところだったので、本当に残念です」(藤本さん)
競走馬としても未完のまま終えた感があるだけに、種牡馬として大輪の花を咲かせてほしいと関係者の方々は願っていたに違いない。遺された産駒たちには、父や関係者の無念を晴らす走りをしてほしいものだ。
種牡馬として希望の光が見えてきた矢先、11年の生涯を閉じたアドマイヤオーラの冥福を心から祈りたい。
(取材・文:佐々木祥恵)