千年以上の誇るべき伝統が、郷土を愛する侍たちによってつながれた――。
7月29日から31日までの3日間、世界最大級の馬の祭「相馬野馬追」が、福島県の太平洋側に位置する相馬市と南相馬市を舞台に行われた。五郷騎馬会の約440騎による壮大な時代絵巻を、今年も取材してきた。
東日本大震災が発生した2011年から7回目の野馬追取材となった今年、何より楽しみにしていたのは、震災後初めて、小高郷の侍たちが、古里である南相馬市小高区内を騎馬で行列することだった。昨年まで、小高郷と標葉郷の侍たちは、初日の宵祭での出陣式も、雲雀ヶ原祭場地への進軍も、騎馬ではなく、徒歩で行っていたのだ。
「今年は宵祭から忙しいよ」
毎年行動をともにさせてもらっている、小高郷の騎馬武者・蒔田保夫さんが、笑顔でそう言った。浮き立つ気持ちを抑えようとしてはいたが、それでも、生まれ育った街を、7年ぶりに馬上から眺められるのを楽しみにしている様が伝わってきた。
しかし、心配だったのは空模様だ。週間天気予報では、ずっと傘マークがついていた。
「大丈夫。雨が降っていても、御発輦(ごはつれん)の花火が上がれば、ぴたっとやむから。それが野馬追日和というやつです」
宵祭が行われた7月29日、土曜日。蒔田さんの言葉どおり、前夜からの雨が、早朝にはほぼ上がっていた。
午前7時前、蒔田さんは、小高郷の侍大将・今村忠一さん宅を訪ねた。そして、玄関先で蹲踞(そんきょ)し、これからともに出陣するむね・・・